Vol.4

「女性は働きやすくなった?」

Vol.4 働きやすさの実感

第4号 2008-11-26

2008年4月、「日経WOMAN」誌は、独自に調査した「女性が働きやすい会社100」を発表しました。採点の際の指標は「管理職登用度」「女性活用度」「ワークライフバランス度」「男女均等度」の4つで、総合ランキング第1位はP&Gが受賞。第2位以下、日本IBM、松下電器産業(現パナソニック)、オリックス、ソニーと続きます。項目別に見ると、女性管理職の登用度では外資系や流通・サービス業が上位を占め、女性活用度では金融系が多く、ワークライフバランス度では電子機器メーカー、男女均等度では保険会社の躍進が目立ちました。
1986年に男女雇用機会均等法が施行されて20数年。
経済環境が大きく変わる中で、働く女性自身は働きやすくなったと感じているのか、いや、働きにくいと痛感しているのか・・・。

第4回目のトピックは「働きやすさの実感」です。

「いま・未来」会議メンバーへの調査で、自分が働き始めてから「働きやすくなった」と答えたのは58%。予想していたより、やや高めの結果となりました。メンバーの約66%が民間企業の正社員か公務員という立場にいること、比較的規模の大きな組織に属している人が多いことの影響もありそうです。
「働きやすくなった」と答えた人の理由は、「自分への自信」「職場での良好な人間関係」「女性のライフスタイルの変化」「諸制度の整備」という4つに分類できます。

力をつけてきた「私」

まず、働き続けてくる中で「自分に力がついてきた」と自覚している人が働きやすさを実感しています。
「経験を積み、自分の役割やポジションを自覚でき、私を必要とする人たちとも出会え、仕事と身の丈で向き合えるようになった」(47歳・建築設計監理・25年)
「与えられた仕事から逃げず、ピンチをチャンスに置き換える努力を繰り返してきた」(75歳・幼児教育・40年)
「勤続年数を重ねて仕事の進め方や力を抜くところを体験的に学び、よくも悪くも自然体で仕事がこなせるようになった」(43歳・会社員・20年)
「経験や知識を積んで、自分のやりたいことをどのようにしたら実現できるかわかるようになってきた」(42歳・システムエンジニア・19年)
これらは、働く自分を肯定し、積極的に職業能力を向上させてきた人々です。専門的な技能を必要とする職種に就いている人ほど、その傾向が強いようです。

やりがいとプレッシャーは紙一重

「インターネットの環境が整い、作業が軽減された」(46歳・フリーライター・23年)や「パソコンの普及によって仕事がスピードアップされた」(53歳・会社員・20年)の声に代表されるように、職場のOA化やITの発達が仕事の効率を上げ、アナログの時代よりは働きやすくなったことは確かです。しかし、意欲的に働き、順調に昇格したとしても、その先に待つ厳しさに直面している人も少なくありません。
「会社でのポジションが上がったことで、自分の意見が通りやすくなったし、視野も広くなった。やりたい仕事を選べる立場にいるので働きやすい。ただ、責任はより重く、時間的拘束も長くなった」(34歳・ホテルのPRとマーケティング担当・8年)
「人から与えられる仕事ではなく、自ら仕事を作り出す立場なので、段取りや予定はたてやすい。その分、仕事に対するプレッシャーはきついが、強制されるより、はるかにやりやすい」(43歳・販促企画・26年)
「それなりに責任のある仕事にずっと就けているが、昇進するにつれて会社から要求されるレベルは高くなり、仕事の難易度は上がっていく。それをやりがいと感じる日もあるが、大変なプレッシャーとなる日もある」(43歳・会社員・21年)

良好な人間関係が仕事を支える

働きやすさは、職場の人間関係との相関関係もあります。上司や同僚、クライアントの関係が比較的良好で、部下が順調に育った場合に「働きやすくなった」と答える女性がいます。
「独立当初は無我夢中で必死だったが、10年も経つと仕事の関係者とも信頼関係ができ、安定してきた」(37歳・訪問によるリハビリとマッサージ施術・11年)
「後輩ができたことで、“量をこなす”から“考える”タイプの仕事が多くなり、自分で時間管理ができ、残業が減った」(プライベートデータ未回答)
「社員間で私的ななつきあいは全くないが、仕事を通しての人間関係は比較的スムーズ」(プライベートデータ未回答)
「部下が育ってきたから働きやすくなってきた」(53歳・会社経営・23年)
「長年の仕事の経験と築いてきた人間関係を十分に生かすことができている」(64歳・フリーアナウンサー、各種研修講師、川柳作家・44年)

多様なライフスタイルが社会に浸透


既婚・未婚を問わず、働く女性の総数は増えてきました。女性が就く職種も以前よりは多様化し、今では子どもをもつ女性宇宙飛行士も誕生しました。
「必ずしも結婚・出産の理由で辞めなくてもよくなり、仕事の幅も広がってきた」(49歳・会社員・27年)
「女性が働き続けることが当たり前になり、役職者も少しずつ増え、特別視されなくなってきた」(67歳・団体非常勤理事・40年)
「ワークライフバランスという言葉を上司が当たり前に知るようになった。家庭の話題を職場でできるようになり、子どもの行事で会社の有給がとれるようになった」(パーソナルデータ未回答)
外からみれば、元々男女差がないだろうと考えられていた公務員でさえ、「女性の先輩たちが実積を積んできたおかげで、女性管理職を女性だからと特別視したり、お飾り的に扱う風潮が少なくなり、個人の力をみてもらえるようになった」(43歳・公務員・20年)と言うあたり、事情はあまり民間企業と変わっていなかったのかもしれません。

正規・非正規雇用の問題はさておき、女性が長く働くことは、職場だけでなく、家庭や地域でも広く認知されるようになりました。
「新卒の頃は女性が長く働き続けることを特別に考える人が多かったが、今は選択肢の一つとして充分認識されている」(36歳・会社員・14年)
「女性の社会進出に対する社会の認識が向上した。以前は飲み屋で隣に座った知らないおじさんやタクシーの運転手にまで説教されていたのに。仕事先に行ってもさほど珍しいと思われなくなった」(41歳・マーケティング・19年)
昨今の女性のライフスタイルが職場に変化をもたらし、「特別ではなく普通になった」ことで不必要な緊張を女性に強いなくなりました。その結果として働きやすくなったと考える土壌が徐々に形成されてきたようです。

諸制度の整備の明暗

社会的には女性労働者にかかわる諸制度は徐々に整いつつありますが、組織で働く場合は、女性社員の登用と評価の仕組みがきちんと機能してこそ、女性の働きやすさが向上します。「雇用機会均等法や育児・介護休業法ができて社会的状況が変わったことと、自分の年齢や経験が増加したことで社内外で発言力や影響力が増したことの2点から働きやすくなってきた」(46歳・化学メーカーのダイバーシティ担当・23年)、「育児休暇、育児時間、社会活動休暇などプライベートで休むことを会社がバックアップする制度を整えた」(43歳・会社員・24年)などの声がその代表選手です。「女性の社会進出に対する抵抗が昔よりは低くなり、公的なサポート制度や民間のサポートサービスが増えてきたから」(40歳・商社・18年)と、働く女性を支える社会資本も少しずつ整ってきました。
その一方で、核心には触れない企業に対して手厳しい意見もあります。
「男女雇用機会均等法で、建前だけでも会社は男女平等にせねばならず、あからさまに女性を差別できないだけ」(51歳・会社員・29年)
「育児、介護休業制度、セクハラ防止など均等法によって働く女性の環境整備は一定レベルまで進んだが、半数以上を占める非正規雇用の女性は置いてきぼりになっている」(67歳・団体非常勤理事・40年)

「少ない社員で過酷な仕事」の現実

今まで紹介したのは「働きやすくなった」と感じている人の主な意見です 。全体的には働きやすくなってはいるけれど、諸手を上げて歓迎はできない状況も見え隠れしています。 一方、自分が働き始めてから今日まで、「働きやすくなっていない」と答えた残り42%の意見を見ていきましょう。複数の人が、正社員の減少と労働量の増大が同時進行していることを挙げています。
「年々、労働環境が悪化している。正社員が減っているのに、会社が社員に求める仕事は増え、多くの正社員が疲弊している。派遣社員は定着しないので、辞めるたびに同じことを何度も教えなくてはならない。派遣社員の責任の範囲が限られている中、結局、正社員の仕事は増えるばかり。派遣社員の制度は経営者にうまく利用されているだけで、社員のためになっていない」(44歳・海外営業・22年)
「コストダウンのために減員された組織で、以前と同じ質量の仕事をこなさないといけない。そのためか、この数年、仕事をめぐる人間関係がぎすぎすしたり、仕事仲間が病に倒れたり、健康に働き続けることが難しくなっている」(48歳・フリーライター・25年) 「法整備やダイバーシティなどについては進歩が見られるが、この10年、新しく導入された成果主義・個人情報の弊害や、正規・非正規問題、格差社会、年金問題など昔にはなかった根深い問題が出てきている(47歳・会社員・24年)
これらは女性だけにおきている状況ではありませんが、気力体力があったとしても安心して長く働き続けられるとは言いがたい過酷な状況です。不安を抱えながら働いているようでは、働きやすいとは言えません。

経済の失速が直撃


11 月上旬、わが国の優良企業の筆頭、トヨタ自動車が業績を大幅に下方修正しました。世界規模で景気が悪化するのではないかと警戒感が広がり、東京株式市場では幅広い銘柄に売り注文が膨らみ、日経平均株価は大きく値を下げました。人事面では、金融不安から早期希望退職を募る動きが加速しつつあり、09年入社予定だった学生の内定取り消しも起きています。経済の悪化が労働の現場を直撃しています。
「経済環境が悪く、努力をしても結果が出にくい時代。無理をするか、どこかで歪(いびつ)な状況を作り出すことでしか、一定の利益や収益水準をあげることができない。そのしわ寄せは社会的弱者だけにきているとも思えない」(41歳・会社役員・20年)
「業界の競争が厳しく、会社の合併などで混乱している。どの部署も人材が足りず、多忙を極めている」(40歳・会社員・18年)
「女性と仕事をとりまく制度など環境要因ではなく、経済環境が悪化していることが働きにくくなった理由につきる」(41歳・会社役員・20年)

依然残る男女の格差

冒頭に挙げた「女性が働きやすい会社ベスト100」の調査で、「女性活用度」ランキングの上位企業の多くは、経営トップが女性活用に積極的で、女性を活用するための専任組織を備えています。逆に言うと、トップの意識が低いか、女性活用の専任組織などとうてい作れない規模の企業だと、女性の活用は鈍り、働きにくさを日々体感することになるのでしょうか。
社員数5人の会社で働く女性は「小さな職場で諸制度があるわけもなく、経営者一人の個性や働き方ですべて決まる」(35歳・会社員・10年)、社員数10 人の会社で働く女性は「就職した20年以上前と比べ、男女の昇格、配置、研修などの差は変わっていない。古い体質の男性が多く、女性社員には責任も権限もない」(パーソナルデータ未回答)という状況を変えることができません。
社員数200人の会社で働く人は「10年前に比べれば法制度などは整ってきたように思うが、女性であるがゆえに働き続ける壁にはまだぶつかる。今の社会はまだ男性優位な状態だから」(30歳・ソフトウエア開発・7年)、社員数1000人でも「いまだ女性が子育てと両立しやすい環境が整っているとは言いがたい。特に夜にかけての仕事や休みが不規則な場合には大変」(39歳・会社員・17年)など悩み多い状況です。
結局、男性優位で築かれている組織では、女性は働きにくいということになります。

働きやすいことと活躍できることの差


「女性が働きやすい会社」調査には外資系企業やグローバルな事業を行う大企業が多くランクインしました。女性が活躍できる企業だからといって、女性自身が働きやすいと思うどうか、やや中身が違うのではないかと指摘する人もいます。
女性役員担当職の有無、女性管理職比率、女性活用専任組織の有無、女性対象の研修制度の有無などは、女性が活躍できる会社かどうかの指標です。
一方で、男女の有給休暇取得率や育児休暇取得率が高く、仕事と生活の調和を尊重する「ワークライフバランス」、女性社員の比率や平均勤続年数が長く、現実的な「男女均等度」、個々の社員の意見を尊重し、公平に扱ってくれる「ダイバーシティの浸透具合」などは、女性にとって働きやすさを感じる指標なのではないでしょうか。
社員数6000人の会社で働く女性は、「職場の制度は充実しているが、仕事が思い通りにできない葛藤があり、トータルで働きやすくなったとは思えない」(38歳・会社員・16年)と話します。制度があっても、現実と乖離しているか阻害する要因が潜んでいると、働きやすいという結果に結びつきません。

分断される女性労働者

今日では労働者が正規・非正規雇用に分断され、多くの女性が不安定な非正規雇用の立場で働いています。経済環境が大きな変化に直面した時、これまでも女性が景気の調整弁として処せられる傾向が続いてきました。さらに正社員の中でも分断が生まれていると報告する人もいます。
「女性登用が増え、研修内容も男女で差がなくなった点では働きやすくなったが、この流れを勝ち取った女性の先輩は直面しなかった新たな問題に、今、ぶつかっている。女性の登用が進み、職域が広がってきた中で、“育児中は仕事を抑えます”と宣言する人と、育児と仕事の両立を図りたい人や独身の人との間に、処遇に大きな差がでてきた。両立を目指す育児中の女性や独身女性が通常以上の残業や土日出勤が多いポストに配属され、その異動の結果、仕事を抑制して育児をしている人より給与が下回る現象が起きている」(公務員)。

仕事と生活の調和を重視し、一人ひとりの個性やライフスタイルが尊重され、安心して働き続けられる職場は、女性はもちろん男性にも働きやすいはずです。少しずつ法制度や社内制度が整備され、ワークライフバランスやダイバーシティの思想が具現化してきていますが、女性の誰もが働きやすいと感じる地点に到達するのはまだ先のようです。