「あなたは長く働けますか」
Vol.3
創刊ゼロ号 2007-08-03
同じ会社で働き続けている人、転職や起業しながら働き続けている人、出産や育児、病気、介護などで休んだり仕事のペースを変えたりしたけれど今も働き続けている人。そんな女性たちに聞いてみました。「これからも長く働き続けたいですか?」と。「いいえ」と答えた人はいませんでした。ゼロ。全員が「はい」。
「はい、長く働き続けますよ。今まで苦労してきたんですから、その元をこれからとらなければ」
(あつべえ・41歳・会社員)
肩に力の入っていない、しなやかな言葉を聞くと、ほっとします。中には「超前向き派」も。
「もちろん仕事は生計のためではあるけれど、チャレンジすることで自分が成長する。それこそが人生じゃありませんか。私にとって『本気のチャレンジ』はビジネスのほかにありません」
(すず・40歳・会社経営)
「生活のためですし、仕事を通じて自分の成長が確認できるからだと思います。それはいただくお給料の額と職のタイトルに反映していくもの。こんな仕事を任されるようになった、というのは、『逆上がり』ができるようになったのと同じくらいの尺度だと思っています。思い上がりかもしれませんが、自分の持っている能力は社会に役立つと思うので、それを生かさないのはもったいない」
(あい・33歳・ホテル広報)
「仕事を通して自分が好きなこと、得意なことが見えてきて、それを伸ばしたいと思います。それに、ひとりではできない大きな規模のことが、自分にもできるという甘美な感覚を時々味わいたいから」
(かがみ・42歳・システムエンジニア)
働く過程で生じるつらいことや疲れることは百も承知。でも、すずさんやあいさんが言うように、自分が成長したなと思えたらエネルギーを充填できます。自分の仕事が好きで、これまで長く働いてきた人ならば、かがみさんが言う「甘美な感覚」ってわかりますよね。
一方、この先も長く働き続けたいとは思っているけれど、「人生の後半、もしかしたら長く働き続けられない何かがおこるかも」と思っている人もいます。
「自分自身や家族に病気や介護など何かがあった時、働く時間が確保できなければ辞めざるをえない。家族の協力があってこそ働いているので、何かあれば家族を優先します」
(みなみ・28歳・ソフトウエア開発)
「長く働けないかもしれないとは思っていません。もしあるとしたら、健康上の理由と、両親など自分以外の家族の状況の変化によると思います」
(ブラック・45歳・役員秘書)
「40 歳を過ぎたころから、体力の衰えを強く感じました。人の名前が覚えにくい、漢字がすぐ書けない、筆記が遅い、小さい文字で長文書を読むのが苦痛になってきた・・。田舎の両親が年老いていくことも気がかりです。父が癌になり、飼っている老犬の介護も発生。家でできる仕事がないか模索中です」
(にゃんチュウ・42歳・事務職)
家族に対する「やさしさ」は、女性の専売特許ではないはず。このやさしさをシェアし、サポートできる仕組みが充実してくれば、不安をもたずに働き続けられるのではないでしょうか。
また、老化や体力の低下は、ワーキングウーマンに限った現象ではありません。が、ちょうどキャリアの後半期には、女性の体が大きく変わる更年期と重なります。心身の調子が思わしくない、若い時と同じペースで働けないと自覚していても、職場から「働き盛り」としての貢献を要求されれば、負荷は大きくなります。
「ときどき、企業でずっと働き続けるのはしんどいなぁと思うこともあります。周囲は、専業主婦の奥さんがいる男性ばかりで、仕事をするペースがついていけへんわ、と思うこともしばしば」
(くろ・44歳・企業のダイバーシティ推進担当)
「今、ちょっと働くのが辛く、今の会社で同じ仕事を続けられるかビミョー。会社や経営者に、もっともっと稼がねばという姿勢がどんどん強くなり、お客さまを喜ばせたり、社会的な存在価値より、会社の存続や目先の儲けが大事という態度があまりにも露骨で、憤りを感じたり、ついていけないと嘆いたり・・。せっかくの仕事が糧を得るためだけのものに見えてきてしまう。今すぐはやめませんが、違う仕事、違う生き方を具体的に模索しています」
(ぷぅ・42歳・企画開発)
くろさんが指摘するように、たいていの職場は「24時間働ける男性たち」を軸に設計されています。家事や育児、介護などケアワークを背負いながら働くことの多い女性たちが、無理を重ねれば、息切れしてきます。この先もずっと働き続けられるだろうか、と自分自身を振り返ってみるとともに、私たちがおかれている環境を眺め直してみましょう。
子どものいる共働き夫婦(妻の週間就業時間が35時間以上の世帯)の場合、仕事をする時間は1日あたり夫7.14時間に対して妻5.36時間、家事関連をする時間は夫0.36時間に対して妻3.50時間(総務省「平成13年社会生活基本調査」)。有償労働、無償労働を合計すれば、労働時間は妻の方が長いのです。
私たちの生活は、「仕事と余暇」「オンとオフ」という二分法では成り立っていません。子どもを育てたり、家族を介護したり、家事労働をしたりすることは「余暇」や「オフ」ではないはずですが、妻は夫の10倍近い時間を費やし、無償でこなしています。
また、男性正社員の所定内賃金を100とすると女性正社員は69.0と大きな開きがあります(厚生労働省「平成18年賃金構造基本統計調査」)。
男女の年齢勤続年数を同一条件としたパーシェ方式で計算しても、男性100に対して女性社員の賃金は78.1と2割以上の格差がついています(日本労働組合総連合会「2005年賃金構造基本統計調査」による賃金分析)。
このような賃金格差は、将来、年金を取得する時の格差にも直結しています。労働時間が長すぎることや家族の中で大きなアンバランスが生じていることは、本人や家族を軋ませます。仕事・余暇・ケアワークや地域活動などをバランスよく担っていかなければ、女性にとっても男性にとっても、心身の健康を維持しながら長く働き続けるのは難しくなるのではないでしょうか。
「フリーランスなので仕事には不確定要素が多く、『これからも長く働き続けられるだろうか』といつも思っていますよ。今の仕事は好きですけど、仕事の依頼がなくなることもありうる。その時には別の仕事を考えていくだろうとも思いますね」
(ぬらりひょん・44歳・フリーライター)
ぬらりひょんさんは、不安を認めながらも「働き続けることを前提に」対処していくと考えています。簡単にあきらめない。だって、これまで長く働いてきたのですから。これからも長く働いていきたいのですから。
働き続けるために、時には自分と仕事をクールに分析してみることも大切です。
「仕事を続けていけるだけの心身の健康が最低限、維持できたとして、それ以外の要因で仕事が続けられないとしたら、現在身を置く業界の社会的ニーズが変化し、その変化に自分がついていけなくなったときではないでしょうか」
(まりりん・42歳・会社員)
将来に何らかの不安をもっていても、必ずしもそれが的中するわけではありません。たとえ的中したとしても、これまで働き続けてきた「自分を信じていく」と答える女性がいます。
「子どもが病気がちでクビになりかけたり、自分の意思とは別に会社が廃業したり、不景気なんてあいまいな言葉で仕事を干されたり、妊娠出産で振り回されたり、介護で職を失ったり・・・今までいろんなことがあったけど何とかしてきた。今後も形はどうあれ働き続けることはできるだろうと思っています」
(ろころん・46際・趣味の教室講師)
「途中で休むことはあるかもしれないけれど、働くという行為はおそらく一生続けると思う。4人の子どもを育て、今年65才になったにもかかわらずまだ求職活動をしている母を手本とし、どんな形であれ仕事とかかわっていきたい」
(あい・33歳・ホテル広報)
ろころんさん、あいさんが答えた「どんな形であれ働き続ける」姿勢は、働く女性のタフさを象徴しているとともに、一抹のあやうさも秘めています。
80年代後半から正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、派遣社員、契約社員、 嘱託など、雇用形態がどんどん多様化してきました。いわばどんな形でも働くことで女 性の就労率は高まっていますが、内訳は非正規雇用で働く女性が増えています。
現在、非正規で働く女性は52.5%に(総務省「平成18年平均労働力調査」速報)。正社 員でない立場は、雇用調整に使われやすく、正社員全体の賃金を100とすると、非正社員 の賃金は約6割に抑えられています。特に女性非正社員の賃金は、男性正社員の約47%と極めて低い水準です(厚生労働省「平成18年賃金構造基本統計調査」)。
実質的に正社員と同じような仕事をしていても、同一価値労働・同一賃金は実現されず、 むしろ格差は広がる様相を呈しています。働き続けることは大切ですが、どんな形で働き続けていくのか、働く女性自身もシビアに意識しておかないと・・。だって、一生懸命働いた末に、貧しい老後を迎えたくありませんから。
さて、次回はいよいよ最終回。どうすれば長く働き続けられるのか、いま・未来会議メンバーたちの熱いメッセージをお届けします。
<次回に続く>